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保険業界のクラウド利用に関する7つの予測
6月 30, 2022

2022年6月30日、東京/ワルシャワ/ケルン/パリ/リッチモンド:保険業界はIT高度化という重要な局面を迎えています。ソラーズ・コンサルティング株式会社(以下ソラーズ)が各国保険業界の経営層を対象に実施した調査では、この変革においてクラウドが重要な鍵を担うことが示されています。ソラーズのクラウドチーム統括ドミニク・カミンスキ ーは、保険業界におけるクラウド利用について今後10年の動きを次のように予測します。

1. クラウドが業界のスタンダードに

保険会社の多くがこれまでクラウド導入に二の足を踏んできた一方、業界のCIOなどIT分野の専門家たちはクラウドベースのソリューションを推奨してきました。ソラーズが2021年に日本、英国、ドイツ、フランス、米国の保険会社に対して実施したアンケート調査によると、各市場トップ10の保険会社のうち8社が、2030年までにクラウド移行しているだろうと予測しました。クラウド導入を阻む要因としては、導入コストとコンプライアンスの問題が上位を占める結果となっています。2022年3月に実施された同様の調査では、クラウド利用の促進には経営層の意識改革が非常に大きな鍵となることが示されています。クラウドに対する信頼が高まるにつれて、保険業界でのクラウド導入がより一般的になっていくことが予想されます。すでに他の業界で普及しているように、保険業界においてもデジタル変革の動きが活発になるに伴い、クラウドが標準的なツールになると思われます。

2. クラウド事業者間の競争が激化

クラウド市場ではAWSとMicrosoft Azureが市場を独占していました。最近では、Googleが市場さ参入し、ミュンヘン再保険やアリアンツのサイバー保険、高度な技術を要する人工知能(以下AI)ソリューションなど、新たな付加サービスの提供を開始しています。このような大企業による寡占状態の中でも、イノベーションは日々加速しており、既存クラウドプロバイダー間の競争は激化しており、サービスへのシフト、AIやビッグデータ、セキュリティの活用など、より優れたソリューションが次々に導入されることが予想されます。各国レベルでは、大手企業の市場寡占に対する対策が各国で行われ、新興企業が増加する動きも見られます。高まるクラウド需要に対応するため、積極的な投資が各国・地域で行われています。例えば、フランスではOVHクラウドが、ドイツではDeutsche Telekom、Ionos、Stackitといった企業が代表的です。しかしこうした地域に根差したプロバイダーは、大手3社が提供可能な技術レベルやセキュリティレベルには未だ及びません。大手クラウド企業は、非常に高いレベルのセキュリティとコンプライアンス認証を提供しており、ローカルプロバイダーよりも規制に関して顧客サポートに優れています。今後は、こうした「先進的」なクラウドプロバイダーの市場支配が継続する中で、ローカルプロバイダーは「シンプル」なクラウドソリューションを提供するにとどまると予想されます。

3. マルチクラウドが選ばれるように

クラウドサービスの市場が成熟するにつれ、多くの保険会社がマルチクラウドを選択するようになるでしょう。マルチクラウドにより保険会社は2社以上のプロバイダーサービスの並行利用が可能となり、それぞれのクラウド環境長所を活用できます。マルチクラウドが好まれる理由は2つです。1つ目の理由として規制に対応するための出口戦略が求められることが挙げられます。保険会社やその他の金融機関は、必要に応じて自社のITをクラウドプロバイダーから別のプロバイダーや自社のデータセンターに移動させる準備をしておく必要があるからです。2つ目の重要なポイントは、マルチクラウド戦略によって向上するスピードです。保険会社は、既存のプロバイダーが価格方針を変更したり、サービスの範囲がニーズに合わなくなったりした場合に、他のクラウドプロバイダーに切り替えられるようにしておきたいと考えています。したがって、マルチクラウドを促進する技術的なツールがより一般的になっていくと予想されます。

4. クラウドのベンダーロックインが減少

クラウド利用が増えるにつれ、保険会社はベンダーロックインが発生するようなソリューションを避けるようになります。クラウドのベンダーロックインを回避するためのソリューションや技術は日々増えてきており、各企業はクラウドへの移行をより考えることになるでしょう。乗り換えやすくベンダーロックインを生じさせない効率的なソリューションを構築する機会を提供するものには、クラウドで利用できる新しいIaC(Infrastructure-as-a-Code)ソリューションや、クラウド上で利用できるクラウドにとらわれないサービスが挙げられます。

5. クラウド規制が実用主義へ移行

欧州保険・年金監督局(Eiopa)は、オープンデータ戦略の一環として、保険業界の共通API(Application Programming Interface)を作成する「オープン・インシュアランス」計画を立ち上げました。これにより、業界内で統一されていなかったアプローチのせいで数十年にわたり阻まれてきた同分野のデジタル化が加速することになります。クラウド規制の方針が予防から実用へと移行することで、保険業界がデジタル化がさらに推進します。ドイツでは政府がクラウド利用を強化することを決定、英国ではクラウドがデジタル・イノベーションの一環かつ市場誘致の重要なターゲットと見なされています。

フランスでは金融局が2013年にクラウドの利点を調査し始めました。現在、MACIF、Covéa、BNP Paribas、MAIF、Generali、あるいはアグリゲーターのLes Furetsなど、保険業界の主要企業はすでにクラウドを導入、あるいは利用開始に向けて着実に動いています。フランス新政府は、クラウド利用についてより明確なルールを求める業界の声に耳を傾けるものと思われます。ポーランドでは、Microsoft Azure、Google Cloud、および独自のクラウドインフラを組み合わせたマルチクラウド戦略を実施するための国家的枠組み「Chmura Krajowa」計画をすでに構築しています。これは、特定の規制を持つ業界の企業が、ポーランドの法律に則ってクラウドを十分に活用できるようにすることを目的として始動しました。「Chmura Krajowa」は、保険会社やその他の金融業界の企業にとって、健全なクラウド戦略を実行するためのパイオニア的取り組みとなっています。

6. AIによる業務自動化がクラウド移行時の重要な目標に

AIの活用がますます普及し、写真撮影、文字認識、音響、スピーチツール、音声認識、マーケティングなど、様々な分野でサービスの改善や新サービス開発の迅速化に生かされています。また、保険業界においても、AIを用いた引受、保険金支払処理業務の自動化や高速化、さらには損害予防の領域にまで多くの活用例が見られるようになりました。しかし一方で、保険会社はレガシー化した旧態依然のITインフラを理由に、利用可能なAIソリューションの導入に消極的な傾向が未だ見られます。ソラーズの調査では、2030年までに保険会社にとって最も重要なテクノロジーとして、RPAによるプロセス自動化やAIと並んで、クラウドが挙げられています。多くの場合、クラウドの利用はAI導入の前提条件となります。クラウドプロバイダーは最も先進的で成熟したAIソリューションを提供しており、常に開発が進められています。この分野で自社ツールを開発することは、リスクの高い巨大な投資となります。したがって、AIベースのソリューションの導入を目的としたクラウドへの移行が広まるでしょう。

7. サイバー脅威の増大がクラウド化の流れを後押し

サイバー空間をめぐる脅威は、保険業界においても深刻な問題です。増加するサイバー攻撃に備えた保険も多く登場しています。同時に、保険会社のITインフラ自体もサイバー攻撃の脅威に晒されています。その解決策の一つとしてクラウドの導入があげられます。理論的には、クラウドはサイバー脅威に対して脆弱であると見られていますが、クラウドプロバイダーは規模の経済を最大限に活用し、個々の企業がオンプレミス環境で行うよりもはるかに多くのサイバーセキュリティへの投資を行うことができるため、実際にはより優れたセキュリティを低価格で提供することが可能です。保険会社は、暗号化やその他のデータ保護ツールをフルに活用することになるでしょう。クラウドは業界のサイバーセキュリティの向上に大きく貢献すると予想できます。

各用語について

API:「Application Programming Interface」の略語。コンピュータやコンピュータ・プログラム間を接続するソフトウェアのインターフェースです。他のソフトウェアにサービスを提供します。

ハイブリッドクラウド:ハイブリッドクラウドは、パブリッククラウドと、プライベートクラウドやオンプレミスのリソースなどのプライベート環境を、個別の存在を維持しながら結合させたものです。

IaaS:「Infrastructure as a Service」の略語。パブリック、プライベート、またはハイブリッドクラウドでコンピューティングリソースをホスティングするクラウドコンピューティングモデルです。

IaC:「Infrastructure as Code」の略語。高レベルの記述型コーディング言語を使用して、IT インフラストラクチャのプロビジョニングを自動化するプロセスです。これにより、サーバー、オペレーティングシステム、データベース接続、ストレージ、およびその他のインフラストラクチャ要素を手動でプロビジョニング・管理する必要性を排除します。

マルチクラウド:マルチクラウドは、企業が異なるベンダーの複数のクラウドコンピューティングとストレージサービスを、単一の異種アーキテクチャで使用することです。

PaaS:「Platform as a Service」の略語。コンピューティングプラットフォームと1つ以上のアプリケーションからなるモジュール式のバンドルを実行および管理できるようにするクラウドサービスのカテゴリです。

プライベートクラウド:単一組織用に運用されるクラウドインフラストラクチャです。インフラが関連性のない外部組織と共有されることはありません。

パブリッククラウド: クラウドサービスを提供するために必要なインフラを多くの独立したテナントと共有する場合、クラウドはパブリックと見なされます。

SaaS:「Software as a Service」の略語。ソフトウェアがサブスクリプションベースで契約され、プロバイダ側でホスティングされるソフトウェアライセンスおよびデリバリーモデルです。

RPA:「Robotic Process Automation」の略語。ソフトウェアロボットや人工知能をベースとしたビジネスプロセス自動化技術の一形態です。