三井住友海上火災保険株式会社
ビジネスデザイン部 アジャイル開発チーム
上席スペシャリスト
コンサルファームでのキャリアを経て、2024年8月入社。スクラムマスター講師やアジャイル組織たち上げに携わる。4年程度アジャイル開発に携わった経験がある。
こんな人におススメ!
アジャイルへの理解と実践的な知識を深めるべくスタートした、MS&ADグループ内アジャイルコミュニティのメンバーと、創業以来組織全体でアジャイルに取り組んできたグローバルITコンサル企業のソラーズコンサルティングのメンバーとの対談。≪前半≫ではアジャイルとウォーターフォールの違いやアジャイルに実際に取り組む上で求められるマインドセットについて、参加者それぞれの経験から様々な意見が飛び交いました。導入編と言えるコンセプト中心の話から、≪後半≫では、アジャイルスクラムチーム編成の在り方やチーム内の役割など、より実践的な内容へと移ります。
三井住友海上火災保険株式会社
ビジネスデザイン部 アジャイル開発チーム
上席スペシャリスト
コンサルファームでのキャリアを経て、2024年8月入社。スクラムマスター講師やアジャイル組織たち上げに携わる。4年程度アジャイル開発に携わった経験がある。
三井住友海上火災保険株式会社
ビジネスデザイン部アジャイル開発チーム 主任
2018年入社。リテール営業部門在籍中に代理店向けシステムを改
善したいと思い、MS&ADシステムズ社へ出向。アジャイル開発チ
ームには3年前の発足時から参画。組織立ち上げ時から 社内開発プ
ロジェクトにて、スクラムマスターを経験。現在は、社内プロジ
ェクトのアジャイルコーチを担当。
MS&ADシステムズ株式会社
自動車・種目共通本部 自動車システム部
自動車オンライン第一グループ デザイナー
これまでウォーターフォール手法によるレガシーシステムの開発が中心だったが、新たな手法を学びたいと考え、今年度、グループ内のアジャイルコミュニティに参画。 モダナイゼーションに関心を持つ。
ソラーズコンサルティング株式会社
シニアコンサルタント
ITコンサルタントとして10年以上の経験を持つ。日本、イギリス、ポーランド、ベルギーその他中欧諸国を含む様々な市場で、8年以上損保業界向けソリューションの導入に携わる。2017年から2019年までアクサ損害保険株式会社における日本初のアジャイル開発によるGuidewire PolicyCenter 導入プロジェクトに携わり、プロジェクトリーダーを務める。
ソラーズコンサルティング株式会社
コンサルタント
2020年ソラーズコンサルティング入社。社内の人事・総務アプリケーション開発プロジェクトや、ポーランドのワルシャワに拠点を置くダイレクト保険会社Beesafe社との保険金請求システム構築プロジェクトにてビジネスアナリスト、スクラムマスターを務める。
ソラーズコンサルティング株式会社
シニアアナリスト
7年間の日系SIer企業勤務を経てソラーズコンサルティングに入社。前職では、SEとして損保・生保会社向け業務アプリケーション開発に携わる。日系、外資系顧客を複数社を担当し、設計~保守まで幅広く担当。ウォーターフォール開発、アジャイル開発両方の経験を持つ
ソラ-ズコンサルティング株式会社
シニアコンサルタント
30年以上の三井住友海上勤務を経てソラーズコンサルティングに入社。同社では2度の海外駐在(シンガポール、インドネシア)も含め、保険引受、保険金支払、法人営業等様々な部門の業務に従事し、損害保険事業全体の業務に精通している。
この記事に掲載されている所属や役職の情報は、対談当時のものです。
現在の所属や役職とは異なる場合がありますのでご了承ください。
2018年入社。リテール営業部門在籍中に代理店向けシステムを改
善したいと思い、MS&ADシステムズ社へ出向。アジャイル開発チ
ームには3年前の発足時から参画。組織立ち上げ時から 社内開発プ
ロジェクトにて、スクラムマスターを経験。現在は、社内プロジ
ェクトのアジャイルコーチを担当。
対談実施日:2025年2月19日
テーマ3:アジャイル型開発プロジェクトのチーム編成とその立ち上げプロセス
最初にやるべきこと
ー 実際にアジャイル型開発プロジェクトを始める際のチーム編成とその⽴ち上げプロセスについて話を進めたいと思います。チーム立ち上げ
時の重要ポイントは何でしょう?
ラファウ: チーム立ち上げの目的や目標を明確に設定することです。それらが定まれば、必要なスキルやテクノロジーを見極め、適切なチーム
メンバーを選定することができます。
佐藤: 私が担当したプロジェクトでは、今のお話と同様、インセプションデッキ¹の作成時にチームの存在意義と目的や、関係者の特定などを⾏
いました。また、恐らく弊社では初めて、事業会社、システム会社、パートナー会社の三社が⼀堂に会してワーキングアグリーメントを決める
といった取り組みを進め、全員でプロジェクトのイメージを共有することを意識しました。
トレードオフスライダー²なども作成し、チームの優先順位や本質的な役割の意思統一を図りました。当たり前のようで今までできていなかっ
たのですが、実際に問題や課題に直面した時に非常に役立ちました。
ー チームの⽴ち上げの段階でどのような問題や課題に直面したことがありますか?
稲岡: アジャイルプロジェクトでは、プロダクトオーナー(以下、PO)やビジネス担当者が、チームの一員としてプロジェクトに参画するとい
うコミットメントが欠かせません。スプリントプランニングやレビューに時々顔を出すだけでは不十分です。ある程度のキャパシティを確保し
てもらう必要があることを理解し、それを確約してもらうことには苦労しました。
梶沼: ウォーターフォール型開発で1年間のプロジェクトと仮定した場合、最初の外部設計に2か月ほど携わった後、UAT(=受け入れテスト)³
が開始する最後の2ヵ⽉までの間は、どうしてもビジネス担当者とシステム担当者間のコミュニケーション頻度は減ってしまいます。これは、ビ
ジネス担当者が継続的に開発へ参画するアジャイルとは大きく異なる点です。
稲岡: メンバーにはそれぞれ他の業務もあるので、プロジェクトへの参画度合いが課題になります。各メンバーがプロジェクトにおける自分の
存在価値を実感するにつれ積極性が上がるのですが、やはり⽴ち上げ時期は難しいと感じました。
三井住友海上 稲岡氏
ー POの方をどのように説得したのですか?
稲岡: POのコミットメントの必要性を丁寧に説いていくということから始めます。そしてインセプションフェーズでまずは一緒にやってみる、
1スプリントから3スプリント程度は何とか付き合ってもらうよう説得します。スクラムマスターを中⼼にチーム全体でワンチームになれるよう
チームビルディングを推進し、徐々にチーム内の関係性が深まると、メンバーの参画度合いも着実に確保できるようになりました。
根性論というか情熱、そういった要素も重要です。アジャイルという火をどう絶やさず進めるかにおいて、アジャイルを推進する私たちが、
まず熱い気持ちを持ってリードしていく必要があります。そうした姿勢を貫くことで、徐々に他のメンバーにも思いが伝わるのではないでしょ
うか。
佐藤: 加えて、MVP⁴で確実にリリースしていくことです。実際に動くものが⾒えると、POも達成感を味わえますし、ユーザーフィードバックを
実施することでアジャイルの良さを理解してもらえるので、そういった機会を継続的に設けるのです。外部設計から始めて、最終成果物を目に
するのがUATの時とするのではなく、できる限り早いタイミングで、小さくても動くものを作って⾒せることを⼼がけています。
また、私のいたスクラムでは、MVPのリリース時で打ち上げをきっかけにチームの結束⼒やモチベーションが⾼まりました。それまで事業会
社、システム会社、パートナー会社が3社集まって飲み会をするなどの交流はあまりありませんでした。 直に会って交流することで、オープンに
話ができる関係になりました。
稲岡: ウォーターフォールの場合はシステム変更の⼤変さが部門外のメンバーには伝わりにくいと思います。アジャイル型開発チームの場合は
⼀緒に作業を進める中で、変更にどれくらいの労力が必要なのかが見えてきます。弊社では、ビジネス部門、システム部門とパートナー企業が
同じ部屋で仕事をしているので、お互いの仕事ぶりや努⼒が⽬に⾒える形になっています。チームに⼀体感もありますね。
ー POの⽅も同じ部屋に来られるんですか?
稲岡: はい、もちろんです。スプリントの期間は2週間なのですが、デイリーミーティングをはじめ、プランニングやリファインメント、レビュ
ーなどのイベントにも参加して、ほぼ毎⽇顔を合わせて仕事をしています。POは、アジャイル作業スペースの上の階にいるので、何かあればス
クラムマスターや開発チームとスムーズにコミュニケーションが取れます。
MS&ADシステムズ 梶沼氏
ソラーズコンサルティング 鶴岡氏
佐藤: 以前は拠点も違いましたし、週1回の定例会議でビジネス部門の⽅々にお伺いを⽴てるような形でした。それではスピードも出ません。⼼
理的安全性という⾯でも⼤きな違いがあります。POのコミットメントやチームとの距離の近さは開発スピードの向上に⼤きく貢献していると思
います。
稲岡: 以前は、ビジネス部門との打ち合わせの資料準備に、印刷や内部レビューなどで1週間をかけるような⼿順を踏んでいました。今はそうい
った無駄を省くことができています。
鶴岡: 私が以前インターン生と共に弊社の社内システムの開発を担当した際、特に課題と感じたのは、アジャイル型開発に不可⽋なフィードバ
ックを通じた改善プロセスでした。レビューやレトロスペクティブを実施しても、なかなか活発な意見交換にはなりませんでした。しばらくし
て、インターン生がPOやビジネス部門の⼈(開発中のプロダクトのユーザー)から直接フィードバックを受ける機会がないことに気づき、意見
交換の場を増やすようにしました。すると、インターン生側から「もっと良いものを作らないといけない。」という気づきが⽣まれ、以降、ミー
ティングでも積極的になりより良い変化が⾒られました。これもこれまでのお話に通ずるものがあると思います。
ー 稲岡さん、アジャイルチーム⽴ち上げにあたり、プロジェクトメンバーの選定時にはどういった点を考慮されていますか?
稲岡: アジャイル開発チームのメンバーが中⼼で⽴ち上げを⾏いますが、パートナー企業や、POなど要件を出す担当者は既に決まっていること
が多いですね。スクラムマスターはアジャイル開発チームで選定します。スクラムマスターは、コツコツとスクラムを回すメンバーもいればチ
ームワークを重視するメンバーなど様々です。POの性格やプロジェクトの性質、例えばユーザー寄りのものなのか、などを見極め、適切なスク
ラムメンバーを配置していきます。現在は、佐藤さんのように以前スクラムマスターを経験したメンバーが、他のチームのアジャイルコーチと
してチームメンバーの育成もしています。
ー メンバーの教育についてですが、アジャイルの経験がない⼈もチームメンバーになることはあるのでしょうか?
稲岡: アジャイル開発チーム発足時は、メンバーの大半がスクラム未経験者でした。その時は外部のアジャイルコーチにも⼊っていただき、サ
ポートを受けました。その経験と知識をもって、現在は私たちがアジャイル推進の核となり、スクラム未経験のメンバーにサポートする体制と
なっています。
梶沼: 佐藤さん、アジャイルの勉強をしていると、メンバーの⾃⽴を促すことが重要であるということが強調されています。スクラムマスター
やコーチとしてメンバーの⾃⽴を促すには、どうすれば良いか、また、どのような点で苦労されていますか?
佐藤: 結論から申し上げますと、根気です。特にパートナー企業の開発メンバーが、POに対して意見を⾔うことは、最初はかなりハードルが⾼
いと感じています。いくらワーキングアグリーメントでファーストネームで呼び合うなどを定めて、⼼理的安全性を⾼めようとしても、最初は
なかなか難しいです。特に、ウォーターフォールに慣れた開発者は、確認したいことを聞くのも躊躇したり、指⽰待ちの状態が続きがちです。
なので、スクラムマスターとしてチームの課題を明確にし、デイリースクラムなどの場で「ここはどうなっていますか?」と投げかけ、双⽅
の会話を促すようにしています。慣れてくると、開発者が直接POに確認するようになってきます。最初は、こうした対話ができる環境作りがス
クラムマスターとして求められると思います。
私が担当していたチームでも、次第に私がいなくても、課題に応じてどの人に話をすべきか、といった判断を、POだけでなく開発メンバー側
もできるようになりました。最初はスクラムマスターがその役割を根気よく果たすべきだと考えています。
ー ソラーズではアジャイルプロジェクトのメンバーを決める際、どのような点が考慮されているのでしょうか?
ラファウ: プロジェクトに必要なスキルとメンバーのスキルが最優先に考慮されます。これまでのプロジェクトでは、お客様にとって初めての
アジャイルプロジェクトであるケースが多かったですが、弊社のチームがアジャイルの導入サポートを行ってきました。例えば、アクサダイレ
クト様とのプロジェクトでは、私は先方のメンバーへのアジャイル研修を担当しました。段階的なサポートを経て、チームメンバー全員がアジ
ャイルの進め⽅を理解し、実践できるようになりました。メンバー選定の際には、アジャイルの経験値はさほど考慮せず、プロジェクトに必要
なスキルを重視しています。
佐藤: 弊社ではアジャイルを実践している⼈がほぼいないので、皆初挑戦という状況です。メンバーをまず決めるというより、現段階では、ア
ジャイルで実施できそうなプロジェクトを⾒つけたら、私たちの⽅からそのチームに「⼀緒にやりませんか?」という提案する形になっていま
す。将来的には、プロジェクト側からアジャイルでの実施を提案してもらえるようにしていきたいと考えています。
ー 各役割に求められるものについて、POから議論を始めたいと思います。POの⽅々は多忙で他の業務もある中で、どのようにプロジェクトに
関わり機能していただくのが最適でしょうか?
佐藤: 特にスピードの⾯で課題となるのは、POは任命されているものの、実際の判断権限がPOの上司に委ねられている場合です。例えば、スプ
リントプランニングで決定した内容が、後からPOの上司に承認されず変更を求められることがあると、無駄なユーザーポイントが消費される原
因となってしまいます。理想的にはPOが決定権を有することですが、POに上司がいる場合は、所属部⾨やチーム単位で事前に合意を取り、その
POが確実に判断できる権限を持てるようにすることが⼤切だと考えます。POが議題を持ち帰って検討するという状況は致命的な遅延を招く可能
性があります。 同時に、POとしても、その覚悟を持って取り組んでいただく必要があります。
たとえば、POは、スプリントプランニングやバックログ・リファインメントでバックログの優先順位を決定しなければなりません。上司に相
談が必要な場合は、それを⾒越して事前に段取りを組んでおく必要があります。無策で、その場で回答できない状況は避けるべきです。
ラファウ: 同感です。決断力に加え、重要なのは決断を下す速さです。結論を出す時点では、必ずしも全ての情報が揃っている必要はありませ
ん。アジャイル型開発では、初期段階での情報は限られています。その時点での最善の結論を出し、新しい情報やフィードバックに応じて後か
ら修正していけばいいのです。逆に、結論がない状態が続くと開発全体が停滞してしまいます。
鶴岡: 他には、先に出てきた「覚悟」が、POのマインドセットとして欠かせないと思います。上司もステークホルダーの⼀部として考えると、
POはステークホルダーと対峙する⽴場であり、ただ⾔われたことを聞く役割ではありません。POが⾃分で良いと判断して実行することについ
て、ステークホルダーに理由を説明して納得してもらう必要があります。
ステークホルダーが直接スクラムチームに指⽰を出すのは最悪のケースです。必ずPOを通す必要があります。ステークホルダーとスクラムチ
ームの間に⽴つのはストレスの多い役割ですが、そのような覚悟を持った方が理想のPOです。
ー 次に、スクラムマスターについて。佐藤さんは現在スクラムマスターの育成に従事されていますが、スクラムマスターに求められることは
何ですか?良いスクラムマスターとは?
佐藤: POも開発メンバーも⽬の前の作業に目線が行きがちなので、スクラムマスターは現在と将来を⾒据えて、今の開発における障壁がないか
を察知する力が⼤事です。その課題を早い段階でチームと共有できれば、早期の問題解決や、結果的に開発スピードの向上につながると思いま
す。
また、誰よりも⾔いづらいことを指摘する立場ではあります。ビジネスメンバーや開発者に対して⾔いづらいマイナスな情報も含めて情報共
有し、チームとして解決に導いていくことが重要です。
ー 開発の妨げとなる要因を先読みし適切に対処するため、スクラムマスターは幅広い視点で状況を把握する必要がありそうですね。
佐藤: チーム全体のことを理解する姿勢が重要ですが、私の場合は特にプロダクトバックログに注⽬しています。バックログが枯渇せず、かつ
着⼿可能な状態に保たれているか確認し、問題があればその原因を特定するようにしています。その原因がチーム内で解決できるものか、他シ
ステムとの連携や環境上の問題なのかを⾒極め、チームでの解決⽅法を早期に検討します。次のバックログに向けて、先を⾒据えた対応を⼼が
けています。
ー 林さんは、理想的だと感じたスクラムマスターの特徴はありますか?
林: チームの雰囲気作りが重要だと考えており、チームカルチャーをアジャイルの理想的な姿へと導けるスクラムマスターですね。メンバーが
⾔いたいことや、⾔いづらいけれども⾔わなければならないことなど、様々な意⾒を出しやすい雰囲気を作れることが⼤切です。加えて、誰に
対しても⼈当たりよく接し、適切なフォローができるスクラムマスターが必要だと感じています。例として、スクラムマスターが臨時で短期間
交代したことがあったのですが、スクラムマスターによりチームの雰囲気が⼤きく変わることを実感しました。そのような意味で、スクラムマ
スター⾃⾝が提供できる価値(バリュー)というのは⾮常に重要だと思います。
ソラーズコンサルティング 林氏
梶沼: 林さん、ウォーターフォールにおける プロジェクトマネージャーとアジャイルにおけるスクラムマスターの違いはどう捉えていますか?
林: リーダーシップのスタイルには様々なパターンがありますが、ウォーターフォールでは、調整役としての側⾯も重要ですが、どちらかとい
うと引っ張っていくタイプのリーダーシップが必要です。特に⼤規模プロジェクトでは、各チームを束ねながらお客様やステークホルダーとの
調整も実施するため主導的な姿勢が不可⽋だと思います。
逆にアジャイルではチームメンバーの⼀⼈としてフラットな⽴ち位置が求められます。⼀⼈だけが突出するのではなく、同じ⽬線に⽴ちなが
ら、良い雰囲気作りをしつつ、スクラムの知識を活かしてチームをリードしていく形です。そこが⼤きな違いだと感じています。
佐藤: スクラムマスターは究極的にはいなくても良い存在なんです。チームメンバーが⾃⽴していけば、その役割は終わっていくからです。プ
ロジェクトマネージャーの場合、その方がいないとチームが動かないような状態になりますが、アジャイルでは逆です。チームの自立を支援し
て、そこに導いていくことは、スクラムマスターに求められる重要な役割です。
鶴岡: スクラム認定試験でよく出題される問題として、従来のプロジェクトマネージャーはスクラムマスターに置き換えられるのか、という議
論があります。答えは、いいえです。スクラムマスターはスクラムを理解している⼈であって、プロジェクトの進捗や予算のマネジメントはし
ません。その点で、ウォーターフォールのマネージャーとは一線を画します。
スクラムガイドによれば、スクラムマスターは、チームがスクラムをどれだけ実践できているかを監視して⽀援する役割であり、進捗や成果
物に対して直接的な責任は負いません。責任を負うのは開発者、スクラムチームなので、タスクの進捗が遅いとか未完了だといった指摘をする
のではなく、基本的には何か問題はないかとチームに問いかけることが重要です。もし問題がなければそれを受け⼊れ、問題発生時には、その
経験から次の機会につながる学びとなるようファシリテートします。
ー ではPOやスクラムマスター以外のスクラムメンバーそれぞれの立場に求められるものは何でしょうか?
稲岡: スクラムを実際に動かしているのは、ものづくりやバックログの具体化をしている開発者だと思います。アジャイルには⾃⼰組織化とい
う⾔葉がよく使われますが、私は実際には中々難しいと考えています。内製化に長いこと携わっているチームは別として、いきなり⾃⼰組織化
すべきと⾔われても実感が湧きにくいものです。むしろ、透明性を重視することが重要だと考えています。現在直⾯している問題を正確に伝え
続けること。透明性を保つことが、最終的に⾃⼰組織化への道につながるのではないでしょうか。
ー ビジネス部門と開発者間の意思疎通を促進するには、どういった工夫が必要でしょうか?
稲岡: やはりコミュニケーションに行き着くかと思います。POは話しかけやすい雰囲気を作り、開発者は透明性を持って些細なことでも確認す
ることで、良好な関係性を構築することが⾮常に重要だと考えています。例えば、文字のフォントといった細かな確認まで、丁寧にコミュニケ
ーションを取るといったことです。
佐藤: ウォーターフォール型開発では問題発生時、開発者が提示する複数の選択肢(A案、B案、C案など)の中から、ビジネス部門が解決策を
選択するパターンがよく⾒られます。リスク管理の観点からは選択肢を増やすのも一理ありますが、メリット‧デメリットの⽐較検討用に資料
を作成したりと、意思決定に時間がかかります。
⼀⽅、POとの信頼関係の下、開発者側が⾃信を持って最適な選択肢を提⽰すれば、他の選択肢の検討の必要もなくなり、問題解決や⽅針決定
が⾮常にスピーディーに進むようになります。 私の実体験でも、最初は「どうしましょうか?」「これにしますか?」とお伺いを立てていたスク
ラムチームが、チームの⾃律性が⾼まるにつれ、「この状況ではこの選択肢が最適だと考えます。」と提案が出るようになり、POも素早い決断が
下せるようになりました。
ー 最後に、三井住友海上とソラーズから⼀名ずつ、アジャイルプロジェクトに興味を持っている読者の皆様へメッセージをお願いします。
鶴岡: フィードバックの早さなど、アジャイルのメリットについて話すことはできますが、これを記事にしても、実感として伝わりにくいかも
しれません。理解はできても、具体的にどういうことなのか掴みづらいと思います。でも、それこそがアジャイルの特徴なのです。
「アジャイル型開発についてよく知らないから踏み出せない。」や「勉強してからやってみよう。」という声をよく聞きますが、アジャイルは机
上の勉強だけでは⾝につかないからこそ、実践的な⼿法として注⽬されているのです。⾃分の知識レベルに関係なく、まずはアジャイルの世界
に⾶び込んで体験してみて下さい。
稲岡: まずシステム開発の観点で⾔うと、ウォーターフォールとアジャイル、どちらも手法、武器の違いだけだと思っています。少しでも興味
があるのなら、 今までウォーターフォールしか経験がなくても、⾃分の可能性を広げる意味でまずは、アジャイルを試しに実践してみて下さ
い。最初からアジャイルの全イベントを完璧に行おうとせず、まずはデイリースクラムあるいは振り返りのみから始めてみるのが良いもしれま
せん。
また、実際にアジャイルを本格的に始める場合は、最初のスプリントから全関係者がアジャイルを理解しているわけではないことを念頭に置
く必要があります。「これはいつ完成するの?」「コストはいくら?」「スケジュールが⾒えないけど?」といった質問が出てくると思います。ま
ずは1つのMVPをリリースするところまでやってみることをお勧めします。
今回の対談でも明らかなように、これだけの有識者が集まっても、2、3スプリントは回してみないと真の価値は⾒えてこないものです。最初
のスプリントで諦めず、たとえ効果が⾒えなくても、リリースまで頑張ってみましょう。アジャイルでも問題なくリリースできると⽰せれば、
周りの⾒⽅も変わります。諦めなければそこまでの根気強い取り組みは必ず報われます。きっと良い未来が待っているはずです。
-後半終了-