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Agentforce – 保険業界のAI改革を後押しするソリューション
1月 09, 2025 Salesforce , 記事 , AI

保険業界におけるAI活用の可能性

  1. 保険業界におけるAI活用の可能性:
    • カスタマーサポート:AIチャットボットが問い合わせに即時応答し、待ち時間を短縮することで、サービス品質の向上に貢献します。
    • 保険金請求管理: プロセス自動化により請求処理を迅速化し、コスト削減と顧客体験(CX)の向上を実現します。
    • 不正検知: 機械学習がデータ内のパターンや異常を特定し、潜在的な不正行為を効率的に検知します。
    • ダイナミックプライシング(動的な料率設定): リアルタイムデータを活用し、個々のリスクに基づいた保険料設定を可能にすることで、公平性と透明性を高めます。
  2. AIエージェントの種類:
    • サポートエージェント(AIエージェント/コパイロット): 人間との協働を前提に設計されたツールです。人間が本来注力すべき業務に集中できるよう支援します。工具と同じくそれ自体で何かを作り出すことはできませんが、業務遂行に不可欠な存在です。
    • 自律型エージェント: 人間の介入をほとんど、あるいは全く必要とせず、自己完結的にタスク(連続した複数のタスクも含む)を実行できるシステムです。
  3. Agentforce:
    • Salesforceが提供する画期的なデジタルレイバー(テクノロジーが人間に代わって業務を担う)プラットフォームです 企業はこれを利用し、様々な部門向けに自律型AIエージェントを構築・カスタマイズできます。Agentforceは、複雑なタスクの自動化とSalesforceエコシステムとのシームレスな連携により、業務効率と生産性を向上させることができます。
    • 保険業界へのインパクト: Agentforceを活用することで、保険会社は業務プロセスを革新できます。具体的には、より質の高い顧客サービスの提供、保険金請求処理の迅速化、不正行為の効果的な検知などが可能になります。このようなAI主導のアプローチは、変化の激しい市場において保険会社が競争力を維持する上で不可欠です。
    • 高度な機能: Agentforceは、検索拡張生成(RAG)や高度な推論機能といった特徴を備えています。これにより、複雑で複数ステップにわたる問い合わせに対しても、正確な回答を提供し、適切なアクションプランを策定・実行します。その結果、ユーザーとの対話は、正確かつ文脈に応じたものになります。

 

AIは保険会社をどう変えるか

AIは様々な産業、そして私たちの日常生活に急速な変化をもたらしており、少し前には想像もできなかった多くのメリットを生み出しています。例えば金融業界では、信用分析や不正検知プロセスの自動化を通じてリスク管理を強化しました。物流業界では、サプライチェーン管理の動的な最適化や輸送ルートの最適化を実現しています。これらは、AIへの投資がいかに競争力向上に繋がるかを示すほんの一例にすぎません。

保険業界は、AIによる変革の軌道に乗り始めた段階にあると言えるでしょう。保険会社の現状認識を深く理解するため、ソラーズコンサルティングはフランス、ドイツ、スイス、北欧諸国の保険会社を対象とした調査を実施しました。その結果、保険業界のいくつかの分野、特に以下の領域において、AI主導のイノベーションの余地が大きい可能性があることが明らかになりました。

  1. チャットボットやAIエージェントを活用したFNOL(事故受付)プロセスの最適化

  2. 顧客の感情やニュアンスを読み取り、コールセンター担当者を支援するAIによる会話フローガイダンス

  3. アンダーライター(保険引受人)向けの文書認識機能

膨大なデータセットの分析から複雑なプロセスの自動化まで、AI技術は保険会社の事業運営のあり方を大きく変える可能性を秘めています。AIを適切に導入することは、業務効率の向上、オペレーションにおける精度の向上、そして最終的には最高水準の顧客サービス提供へとつながります。

AIとの主な関わり方

サイエンスフィクションの世界を除けば、AIは大規模言語モデル(LLM)を用いた問題解決の文脈で語られることが多いですが、LLMはAIの一形態にすぎません。しかし、近年のLLMの目覚ましい進化と、それに伴うプロセス自動化への期待の高まりを受け、本記事ではこの分野に焦点を当てて解説します。

大規模言語モデル(LLM)

LLMが構造化されたテキストを生成する能力は、プログラムによる制御を可能するアプリケーションロジックとの連携に不可欠です。LLMは、従来の手法では不可能だった高度なデータ処理やテキスト生成を実現するツールとして機能します。

「チャットボットは以前からあったではないか」と思われるかもしれません。確かに、チャットボットは以前から存在していました。しかし、例えば宅配便のウェブサイトで荷物の状況を確認しようとした際、旧来のチャットボットがこちらの意図を理解できず、数分間の不毛なやり取りの後、結局オペレーターに転送された、といった経験はないでしょうか。旧来のチャットボットは、事前に想定された質問パターン以外では文脈を理解できませんでした。なぜなら、あらゆる問い合わせに対応させるためには個別にプログラムまたは設定する必要があったからです。一方、最新のLLMは、「こんにちは」でも「どうも」でも「やあ」でも、特別なプログラミングなしに、それが挨拶であると理解し、適切に応答できます

自律型AIエージェント

サポートエージェント(「コパイロット」とも呼ばれる)は、LLMが人間による特定のタスク遂行を支援するというコンセプトのAIです。例えば、デベロッパーが新機能のコードレビューを受ける、あるいは、ある保険金請求に関する過去の全やりとり履歴を要約してもらう、といった活用が考えられます。サポートエージェントの役割は、人間の作業効率を高め、判断に必要な追加情報を提供したり、評価したりすることです。タスクを自律的に実行するのではなく、あくまで提案や推奨を行うにとどまります。最終的な意思決定の責任は人間が負います。

これに対し、自律型エージェントは、その名の通り、人間の関与を基本的に必要としない点で、未来へのさらなる一歩と言えます。ただし、自律型エージェントが下した判断について、事後的に人間によるチェックポイントを設けることや、そもそも人間の確認・再確認が不要なタスクを委任することが、現状では強く推奨されています。

LLMとAIエージェントの違いは?

では、自律型エージェントはChatGPTのようなLLMとどう違うのでしょうか? 主な違いは、LLMとの対話が基本的に「ユーザーが入力(プロンプト)を送信し、LLMが応答を返す」という形式であるのに対し、自律型エージェントのワークフローはより複雑な点にあります。自律型エージェントの処理プロセスは、概ね以下のように説明できます。

  1. データ入力:つまたは複数のソースからデータを受け取ります。
  2. 分析: 内部メモリや必要に応じてインターネット上の情報にアクセスし、データを分析します。これにより、モデルが持つ初期知識を超え、最新情報を反映させることで、より正確な意思決定が可能になります。これは「思考」や「理解」の段階と言えます。
  3. 計画: 分析結果と、利用可能なツールやデータベース、他のエージェントなどのリソースを組み合わせ、実行すべきアクションのリスト(計画)を作成します。
  4. アクション: 計画に基づき、次のステップを決定し、利用可能な能力を使ってアクションを実行。その結果からフィードバックを収集します。
  5. 回答: 実行されたアクションの結果を分析し、最終的な応答として報告・提示します。

ここからわかるように、自律型エージェントは単なる質疑応答にとどまらず、新しいアーキテクチャやアプリケーション設計パターンを生み出します。データそのもの、多様なファイル形式への対応、データベースの構成、検索戦略といった要素が、コーディング作業と並んで、自律型エージェント開発の成否を左右する重要な要因となります。これは、自律型エージェントの開発が、一時的な修正や短期的な実装プロジェクトではなく、包括的な変革として捉えるべきであることを示唆しています。

Salesforce Agentforceの動作モデル

過去数年で利用可能になったAIツールは膨大な数にのぼり、その全体像を把握するのは困難です。AI研究はまさに黄金時代を迎えており、発表される論文数も、利用可能なモデル数も増え続けています。AIコミュニティであるHugging Faceだけでも、120万以上のAIモデルが公開されており、この進化すべてに追随することはほぼ不可能です。 こうした状況下で、ビジネスの現場で実用可能なAIソリューションのアーキテクチャを構築するのは容易ではありません。AI技術の変化のスピードが速いため、計画した投資が、いざ稼働する段階には時代遅れの技術になってしまうケースも少なくありません。

このような背景から、すぐに利用できる(OOTB:Out-of-the-box)AIソリューションへのニーズが高まり、Salesforceのような主要ソフトウェアプロバイダーも迅速に対応しています。Agentforceは、CRMプラットフォームへのAI導入を簡素化し、Salesforceの顧客が最新技術、特にLLMを容易に活用できるようにする優れたソリューションです。Agentforceには、単純なLLMをユーザー向けの強力な自動化ツールへと昇華させる、いくつかのアーキテクチャ上の工夫が凝らされています。Salesforce公式実装パートナーとして、私たちはお客様の組織へのSalesforce導入・活用をご支援いたします。

Salesforce AIの進化

Salesforceが採用するアーキテクチャ上の工夫の第一は、RAG(検索拡張生成)です。OpenAIがChatGPTを初めて公開した当初、質問回答時に処理できる情報の量(コンテキストウィンドウ)は非常に限られていました。LLMの能力を最大限に引き出すには、このコンテキストウィンドウを拡張するソリューションが必要なことは明らかでした。そこで考案されたのがRAGです。近年このコンテキストウィンドウのサイズは数ページから数百ページへと拡大しましたが、依然として、広大な情報の中から関連情報を見つけ出す一貫性の問題や、処理コストの増大といった課題があります。RAGは、これらの課題を軽減する有効なアプローチです。

agentforce rag working model graph

検索拡張生成(RAG)の仕組み

RAGは、AI顔認証システムと非常によく似た仕組みを採用しています。顔認証では、個人の顔写真に紐づけられたデータベースが存在します。このデータベースは、画像そのものではなく、顔の特徴を表す複雑な数学的ベクトルとして保存されています。顔認証システムを使用する際、対象者の顔も同様にベクトルに変換されます。そして、この新しいベクトルをデータベース内のベクトルと比較することで、類似度を算出し、同一人物かどうかを判定します。

RAGも同様に、文書をチャンク(意味のある塊)に分割して保存し、各チャンクに対応するベクトルを計算・保持します。ユーザーから質問が入力されると、その質問もベクトル化され、データベース内のベクトルと比較されます。システムは類似度の高いベクトルを特定し、それに対応する文書チャンクをLLMのコンテキストウィンドウに含めます。これにより、LLMは質問に関連性の高い情報だけを参照して回答を生成しやすくなり、結果として回答の精度向上と処理コストの削減につながります。

Salesforce Atlas推論エンジン

AgentforceにおけるSalesforceの第二の工夫は、推論エンジン(Reasoning Engine)です。これは、LLMに対するプロンプティング(指示)において、コストはかかりますが、非常に強力なツールです。基本的なLLMとの対話では、LLMはユーザーのプロンプトに直接応答するだけです。ユーザーが具体的に何を求めているのか、望ましい結果は何か、タスク達成に必要なステップは何か、といった点を自律的に「思考」することはありません。

しかし、「Chain of Thoughts(思考の連鎖)」のようなプロンプト技術を用いることで、LLMはより的確で正確な応答が可能になります。Chain of Thoughtsを活用する場合、LLMはユーザーの質問やタスクに応答する前に、内部でいくつかの問いを立てて思考を深めるように設計されます。例えば、「このプロンプトで達成したい最終的な成果は何か?」といった問いや、「望ましい成果を得るために必要なステップを明確にする」といったステップの明確化などが含まれます。

これにより、応答生成までに追加の処理が必要となるためコストは増加しますが、より質の高い結果が期待できます。結果的に、ユーザーとの対話全体がより短く、スムーズになる可能性があります。

Agentforce推論エンジンの重要な側面として、Salesforceエコシステム内で事前に定義されたタスクを実行できる点が挙げられます。システムから関連情報を取得する、既存のタスク/ケース/リードにコメントを追加する、納期を更新する、顧客連絡先情報を更新するなど、多くの標準(OOTB)アクションを実行できます。さらに、Salesforce管理者や開発者がプログラムしたカスタムアクションやフローを実行することも可能です。

Salesforceエコシステムに組み込まれたこれら二つのアーキテクチャ上の工夫により、Agentforceは、単純なLLM単体よりもはるかに強力なツールとなります。これは、既存製品をAIによって強化し、新たな価値を提供する優れた事例と言えるでしょう。

保険業界におけるAIのユースケース

急速な技術進歩の時代にあって、保険業界は重要な岐路に立たされています。経営層は、自社が競争優位性を確立したいのか、特定のニッチ市場で成功を収めたいのか、あるいは、従業員や顧客を悩ませている非効率なプロセスを自動化したいのか、といった戦略的な判断を下す必要があります。

カスタマーサポートの自動化

保険分野におけるAIの最も重要な応用例の一つが、カスタマーサポートの自動化です。従来、問い合わせ窓口では長い待ち時間が発生したり、定型的な質問の繰り返しが顧客の不満を招いたり、リソースの浪費にもつながっていました。しかし、AI搭載のチャットボットや仮想アシスタントを導入すれば、保険金請求、苦情、異議申し立て、情報照会といった一般的な問い合わせに即座に対応することが可能になります。これらのシステムは、一貫したサービス品質を保ちながら、同時に多数の対話処理を行えるように設計されています。定型業務から人間のオペレーターを解放することで、企業は、より個別化された対応が求められる複雑な顧客ニーズへ注力できるようになります。

保険金請求管理におけるAI活用

同様に重要なのが、保険金請求の管理・処理プロセスにおけるAIの活用です。請求の受付から支払いまでのプロセスは、人手による多数の確認ステップを要するため、非効率性や遅延が生じがちです。機械学習アルゴリズムを活用することで、保険会社はこれらのプロセス(受付から支払いまで)を大幅に自動化することが可能です。これにより、顧客にとっては解決までの時間短縮、企業にとっては運用コスト削減というメリットが生まれます。さらに、過去の請求データと、事故や請求パターンに関するリアルタイム情報を組み合わせることで、より的確な判断を下し、潜在的な不正請求をより迅速に検知することも可能になります。

AIによる不正検知

不正請求は毎年巨額の損失をもたらすため、その検知は保険業界における重要な課題となっています。この分野でもAIは役立ちます。膨大なデータを分析し、不正行為を示唆する傾向や異常パターンを発見することで、リスク軽減戦略の構築を支援します。機械学習モデルに過去の請求データを学習させることで、異常に高額な請求、報告された事故状況との矛盾といった不審点を検知し、金銭的損失が発生する前に、さらなる調査が必要なケースとして警告を発することができます。

保険引受業務(アンダーライティング)におけるAI活用

リスク評価の精度向上とスピードアップが実現できるため、引受プロセスはAI技術の進歩から大きな恩恵が期待できる分野です。保険会社は、大規模データベース、過去の記録、リアルタイムの市場状況などを詳細に分析し、個々の申し込み案件のリスクを正確に評価するアルゴリズムを活用し始めています。この精度の高さにより、アンダーライターは、画一的な統計データだけに依存するのではなく、個々のリスク特性に基づいた、より個別化された見積もりの作成が可能になります。

AIを活用したダイナミックプライシング

ダイナミックプライシング(動的な料率設定)も、今日の保険業務においてAIの活用が期待される分野です。年齢や居住地域といった大まかな分類に基づく固定的な保険料(必ずしも実際のリスクを反映しないもの)の代わりに、AIを用いることで、保険会社はリアルタイムのデータ入力(例えば、運転習慣といった直接的な情報や、気象条件、新薬承認状況といった間接的な情報)に応じて保険料を調整することが可能になります。このような柔軟な価格設定は、競争力の維持に役立つだけでなく、保険会社と保険契約者間の透明性の向上にもつながります。顧客は、自身の保険料が画一的な基準ではなく、実際のリスクレベルを反映していると感じることで、納得感を得やすくなります。

個別化された販売プロセス

AIを活用したセールス支援は、営業担当者の生産性やリード管理能力に関するインサイトを組織にもたらし、保険のような信頼基盤のビジネスでは不可欠な顧客との信頼関係を損なうことなくコンバージョンを最大化することを実現します。営業担当者は、顧客ライフサイクル全体を通じて収集されたパフォーマンス指標から得られる分析に基づき、個々の営業活動における改善点にあわせて推奨された研修を受けることもできます。

顧客維持(リテンション)モデリング

積極的な顧客維持戦略も、最新技術を用いた分析に適した重要な応用分野です。従来のように顧客が不満を表明するのを待つのではなく、機械学習技術を活用する保険会社は、解約率の低減のため個別化されたアプローチを通じて、積極的に顧客との関係構築を図っています。過去のやり取りから得られる行動パターンや属性データを分析することで、毎年大規模なビッグデータ分析プロジェクトを実施せずとも、顧客維持施策に関するヒントを得ることが可能です。

個別化された保険契約更新プロセス

契約更新の管理も、高度なアルゴリズムによる自動化機能によって、よりスムーズに行えるようになります。これにより、既存の契約者に対して、余裕をもってタイムリーな更新案内を直接送信することが可能です。さらに、個々の顧客に合わせた契約条件や割引の提案など、長期的な関係維持を目的とした施策展開も考えられます。

保険業界におけるAIの未来

トレンドと予測

テクノロジーが現代生活のあらゆる側面に影響を及ぼす時代において、AIのような革新的なソリューションを取り入れることが、顧客体験の向上、リスクの軽減、コスト最適化に不可欠であるとの認識が広がっています。自律型エージェントの恩恵を完全に享受するにはまだ時間がかかるかもしれませんが、現状で最も推奨されるAIの活用法は、人間とAIの協働です。AIの持つ処理能力と膨大なデータへのアクセスによって人間の能力を補強することで、従業員は日々の業務をより正確かつ効率的に行えるようになります。

調査結果の分析から、AIの活用が競争力を維持し、変化する市場ニーズに対応するために不可欠になっていると結論づけられます。ソラーズコンサルティングが調査した保険会社グループは、AI活用が市場競争力に最も大きな影響を与える分野として、以下の3点を挙げています。

  1. 顧客体験の向上
  2. 保険金請求プロセスの効率化
  3. 保険金請求処理の精度・信頼性向上

これらに加え、バックオフィスの改善、市場における地位強化、販売効率の向上なども重要な側面として挙げられました。保険会社は、市場ニーズや急速に変化する環境に対し、迅速かつ効果的に対応していく必要があります。人間と最新のAI機能との協働は、そのための理想的な組み合わせと言えるでしょう。

リスクと課題

当然ながら、最新かつ未知の技術を導入するには、特有の課題やリスクも伴います。保険業界は、特に個人データの取り扱いに関して、厳格な規制の下にあります。そのため、一部のクラウドベースで信頼性が確立されていなかったり、仕様が不明瞭だったりするソリューションは当然ながら懸念材料となり得ます。私たちが実施したAI調査では、回答した保険会社の約80%が、コンプライアンスをAI導入における主要なリスク要因として挙げており、これがAI技術の全面的な導入を妨げる一因となっています。顧客データが安全に保護され、漏洩しないようにするためには、信頼できるデータ匿名化技術や、LLM側でデータを保持しない(ゼロデータリテンション)安全なゲートウェイなどを利用してAIソリューションを実装することが極めて重要です。

もう一つの大きな課題は、既存のプロセスやシステム(多くの場合、複雑にカスタマイズされていたり、レガシーであったりする)にAIを組み込む際の莫大な実装コストと複雑さです。AI導入には、トランスフォーメーションを正確かつ慎重に推進できる専門知識を持つチームも不可欠です。しかし、保険会社のIT部門は、既存ITインフラの維持管理に追われ、イノベーションに割けるリソースがない場合も少なくありません。このような状況では、自然言語で指示でき、人間が説明できる範囲のタスクであればAIエージェントが実行してくれる可能性があるSalesforceとAgentforceのようなローコード/ノーコードプラットフォームが有効な選択肢となり得ます。

変化に対する人間の一般的な抵抗感も無視できません。組織や従業員が慣れ親しんだプロセスや働き方を変えることに抵抗を感じるケースも少なくありません。たとえ変化が多くの利点をもたらし、日々の業務満足度を向上させる可能性があったとしてもです。組織全体でAIに対する正しい理解と前向きな姿勢を醸成していくことが重要です。

AIの「過熱感」を超えて

graph showing evolution of ai solutions in 2024

新たな破壊的技術が登場するとき、同じ分野ですでに技術的に成熟し、生産性の安定期に入っている他のソリューションにも目を向けてみることも有効です。生成AIが依然として注目を集める一方で、画像から特定の情報(色、顔、X線写真の骨折箇所など)を抽出するコンピュータービジョン技術については、あまり語られていませんが、これらの技術はビジネスプロセス自動化において大きな可能性を秘めています。機能構築のための成熟したツールセット、比較的透明性の高いマーケティング、長年の経験を持つ専門家の存在、そして多数の成功事例といった点から、もっと注目すべきでしょう。また、開発ペースが比較的緩やかであるため、今日導入したソリューションが数年で陳腐化しにくいという利点もあります。

OCRとコンピュータービジョンは保険プロセスをどう支援できるか

コンピュータービジョンの中で最も身近な応用例はOCR(光学文字認識)です。OCRの起源は1914年にまで遡り、今日ではIDカード、請求書、医療記録など、多種多様な文書を読み取るOCRツールが存在します。

金融分野におけるOCRの最も一般的で信頼性の高いユースケースの一つは、請求書のスキャン画像や写真からデータを読み取り、システムの該当箇所へ入力する機能です。この単純ながらも手間のかかる作業を自動化することで、時間短縮、エラー削減、そして業務の快適性向上につながります。

保険業界では、特に引受業務や保険金請求処理において、文書データをシステムへ自動入力する目的でOCRを活用できます。MulesoftやAgentforceのようなツールは、LLMと組み合わせることで、文書から必要なデータのみを抽出する高度なソリューションを実現し、OCRの導入を容易にします。

しかし、コンピュータービジョンはAIのより広範な分野であり、OCRに限りません。例えば、自動車保険会社は、車両損害査定に関する膨大なデータセットを管理しています。このデータを用いて、損害箇所の写真と車両データから修理費用を自動で見積もるコンピュータービジョンモデルを構築できます。これにより、人間の査定が必要となるのは例外的なケースに限られます。こうした自動査定は、請求プロセスの自動化だけでなく、保険金詐欺の可能性を検知するのにも役立ちます。同様に、医療保険分野では、X線写真や超音波画像から病変や怪我を検出するためにコンピュータービジョンモデルを利用できます。ただし、医療データは規制が厳しいため、より慎重な扱いが求められる分野でもあります。

損害保険(特に火災保険や新種保険など)においても、コンピュータービジョンシステムは特に物体認識の応用において非常に有用です。物体認識モデルは、画像内のひび割れ、水濡れ跡、焼損箇所といった特徴を識別することが可能です。この能力は、顧客から報告された損害状況の確認だけでなく、保険契約前の物件検査を支援することも可能です。

結論

AIは、保険業界の市場環境を一変させる大きな可能性を秘めています。このまたとない機会を活かすためには、非常にシンプルで導入しやすい小規模な取り組みから、大規模な変革プロジェクトに至るまで、思慮深く段階的に行動することが求められます。

一部の組織は独自のAIインフラ構築を検討するかもしれませんが、本稿で述べたように、それには多大な労力とリソースが必要です。初期投資も巨額になり、投資回収にも時間を要する可能性があります。より現実的なアプローチは、Agentforceのような市場で実証済みのソリューションを活用することでしょう。

Agentforceを利用することで、保険会社は迅速に市場へ価値を提供し、競合他社に先んじてビジネスを成長させることができます。カスタムAIモデルの開発、継続的な再学習、セキュリティ、モデル共有、専門AIエンジニアの確保、コストのかかるスケーリング、急速な技術変化への追随といった複雑な技術的側面はすべて、Salesforceプラットフォーム上のAgentforceが管理します。こうした既製ソリューションに投資することで、組織は最新技術の恩恵を迅速に受け、新しいアイデアや顧客サービスの手法をより早く市場投入できます。

保険業界は、人間とAIエージェントが容易に協働し、ビジネス変革の次なるステージを創造できる、大きな変革期を迎えています。 この機会を活かせない企業は、コスト構造の悪化、リスクポートフォリオの劣化、そして市場シェアの低下といった形で、取り残されることになるでしょう。


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フベルト・ムウォジャノフスキ  Salesforce担当部門長

photo of salesforce contact person 

マリウシュ・ハラチェク Salesforce担当アーキテクト