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CEO Voices : Guidewire Software 共同創設者 元CEO マーカス・リュウ氏へのインタビュー
11月 13, 2025 CEO Voices , Interview , CEO voices




“保険業務はAIの導入によって多大な恩恵を受けることができますが、その期待は実際の技術力を超えるべきではありません”

マーカス・リュウ氏について

マーカス・リュウ氏は、20年以上にわたり、急成長ソフトウェア企業の設立やコンサルティングに携わってきた、経験豊富なテクノロジー起業家、ベンチャー投資家、取締役です。リュウ氏は、Guidewire Softwareの共同創業者および元CEOとして最もよく知られています。2001年に同社を共同設立し、2012年には株式上場を果たして、同社は年間売上高が10億ドルを超え、時価総額が最大200億ドルに達するグローバルなリーディングカンパニーへと成長しました。

 

現在、リュウ氏はBattery Venturesのゼネラルパートナーとして、エンタープライズソフトウェア、業種特化型SaaS/AI、フィンテック・インシュアテック分野への投資活動を主導しています。また、Checkr、Bloomreach、Bestow、hyperexponential、Coram AI、Liberate、Guidewireなどの企業の取締役を務め、Vesta TechnologiesやKAVなどの革新的なスタートアップ企業にアドバイスを提供しています。

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Guidewire Softwareについて

Guidewire Software は、損害保険会社が効率的に業務を行い、革新を起こし、成長することを可能にする、実績のあるプラットフォームです。Guidewire は 43 ヶ国以上、570 社以上の保険会社にサービスを提供しており、グリーンフィールドプロジェクトから迅速な製品導入まで、1,700 件以上の導入実績があります。業界最大の研究開発投資と、205社以上のマーケットプレイスパートナーおよび 250 以上の統合ソリューションを含むパートナーエコシステムにより、Guidewire は、保険業界向けに、基幹システム、アナリティクス、デジタルソリューション、AI 機能を提供し、その業務を支援しています。2,500 人以上の従業員と 26,000 人のトレーニングを受けたコンサルタントのサポートにより、Guidewire は損害保険会社の成功に全力を尽くしています。

要約

保険業界は、過去を振り返る分析から、将来を見据えたリスク予測へと進化を遂げています。アクチュアリー(保険数理士)は、AI、IoT、および高度なデータを利用して損失を予測・防止するプログラマーへと変化しています。保険会社は、アジリティと革新性に対する期待の高まりに直面しているため、戦略的な明確さと業界の複雑性に対する十分な考慮が不可欠です。長期的な成功は、回復力のある組織の構築、価値観の整合、そして業界の特定の業務要件を満たすソフトウェアの提供にかかっています。

ソラーズ・コンサルティング共同創業者兼マネージングパートナー ミハウ・トロ
トロヒムチュクによるGuidewire Software共同創設者 元CEO マーカス・リュウ氏へのインタビュー

 

ミハウ・トロヒムチュク:過去25年間で、保険業界にとって最も重要な技術開発は何でしたか。また、それらはリュウ氏のプロジェクトにとってどのような意味を持ちましたか。

 

マーカス・リュウ氏:重要な開発の一つは、プログラミング言語の進歩、特にビジネスロジックの定義方法における変化です。AI コーディングエージェントがなくても、現在のプログラミングは、かつてアセンブラーソフトウェアを使用していた時代に比べてはるかに簡単になっています。アプリケーションは、より理解しやすく、保守も容易になりました。

 

また、機械学習も膨大な計算能力のおかげで非常に強力な技術となり、25年前には誰も想像できなかったほどの水準を超えました。これは、損失の予測を根幹とする保険業界にとって特に重要なことです。

 

人工知能は、この大きな変革の一側面に過ぎません。

 

もう一つの重要な進展は、システム間のデータ交換を低コストで可能にする、マシン間通信(M2M)です。現在では当然の技術と見なされていますが、25年前にはそれは夢物語に近いものでした。

 

モバイル機器も登場していますが、保険業界への影響は他の業界に比べてやや限定的です。

"社員に「金持ちにはなれないし、母親はその仕事内容を理解できないし、仕事は大変になる」と伝えました。それでも、なぜかそれがうまくいきました。"

ミハウ・トロヒムチュク:現在、世界が直面している地政学的、経済的または環境の問題について、最も重要だと思われる課題はどれですか。また、それらにどのように取り組んでいますか? 

 

マーカス・リュウ氏:私たちは、これまでにない新たな脆弱性に直面しています。

 

長い間、戦争や紛争、共産主義、ファシズムといった野蛮な過去はもう終わったと信じてきました。あの時代が過ぎ去ったことは、明白で疑う余地のないことのように思われました。しかし、今ではその確信は失われてしまいました。私たちが信頼してきた基本原則が崩れ始めているのです。

 

この変化は、私が「疲弊し、おそらくは解決不可能な文化戦争」と捉えているものと密接に関連しています。そして、それが私にとって、起業家としてだけでなく、父親、夫としても、最も不安に感じる点なのです。

 

それに対して、私は関わっている組織に対し、周囲の混乱に左右されることなく、真実を追求する姿勢を持つよう強く促しています。

ミハウ・トロヒムチュク:今後、保険業界に最も大きな影響を与える変化は何ですか?リュウ氏のプロジェクトに何を期待していますか?AI、IoT、量子コンピューターなどの技術開発はどのような役割を果たすと考えますか?

 

マーカス・リュウ氏:将来、アクチュアリーやアンダーライターは、過去よりも未来に重点を置くようになるでしょう。彼らの役割は、よりコンピュータを利用した分析へと変化し、データサイエンティストやプログラマーになることが求められるようになります。

 

この変化に対応できる企業は、大きな優位性を得ることができます。これをうまく実行するためのスキルと能力は、ますます重要になっていきます。

 

もう一つの大きな変化は、保険会社がリスクを特定し、損失を防ぐ方法に現れるでしょう。データやセンサーの利用可能性が高まるにつれて、人々に警告し、準備を助けるために活用できる情報が大幅に増えます。これにより、予防的なリスク管理のための新しい可能性が開かれます。

 

比較のために言えば、銀行で使用されている信用評価システムは、保険数理モデリングの複雑さに比べると、かなり単純なものだということです。

ミハウ・トロヒムチュク:AI と生成型テクノロジーは急速に進歩しています。これらは、保険引受、保険金請求処理、顧客サービスにどのような影響を与えると思いますか?また、保険会社はこれらの導入をどのように優先すべきだと思いますか?

 

マーカス・リュウ氏:AI は、従来、人手や手作業に大きく依存していた分野において、すでにプロセスを円滑に進める役割を果たしています。その最大の強みは「翻訳」にあります。私の母は韓国語と英語の翻訳者でしたが、今日では、そのようなサービスは無料で利用できます。

 

AI は、言語、データ形式、システムの違いを埋めることで、さまざまな意味的障壁を削減しています。かつて保険会社が非構造化データに苦労していたのに対し、AI はそれを構造化し、人間による翻訳を介してシステム間のコミュニケーションが可能にしています。

 

AI が、少なくとも直接的には、癌の治療などの問題を解決するとは思いませんが、保険分野ではその価値は極めて現実的なものです。たとえば、Guidewire の導入にかかる作業の半分はシステム統合で、AI はこれを簡略化する可能性を秘めています。AI によって、保険会社は顧客のニーズをリアルタイムで把握し、そのニーズをバックエンドシステムに直接結びつけることができます。これは効率を高めるだけでなく、はるかに優れた顧客体験を生み出します。時間が経つにつれて、共感的な体験にまで進化する可能性もあります。

 

最終的に、AI は、保険会社が長い間目指してきたものの、実現が困難だった、真のオムニチャネル・エンゲージメントの可能性を切り開いています。私はここに、AI の最も即効性があり、かつ変革的な影響があると考えています。

"この戦略的枠組みの構築はすぐには実現しませんでしたが、その目標は明確でした。保険業界における機関システムの移行は非常に困難であるため、10 倍の能力が必要であることを認識していました。."

ミハウ・トロヒムチュク:Guidewire の成功の要因は何だとお考えですか?

 

マーカス・リュウ氏:Guidewire の成功は、3 つの基本原則、すなわち、集中的な焦点、基本的な敬意、明確な差別化に基づいています。

 

当社は、生命保険や健康保険とは根本的に異なる損害保険(P&C)に集中的に取り組んできました。2000年代初頭には、特定の業界に特化した基幹システムへの投資が、ベンチャー投資の対象になり得ると考える人はほとんどいませんでした。しかし、私たちは、保険業界におけるエンタープライズソフトウェアの複雑さを理解していました。保険業界では、シリコンバレーでに見られるような迅速な開発および交換サイクルとは対照的に、システムは数十年かけて進化していくのです。

 

初期の段階で戦略的な枠組み、即ち、何を達成したいのか、そして同じくらい重要である「やらないこと」を明確に定義することは非常に重要でした。この明確さこそが不可欠でした。常に新しい道を開拓するというシリコンバレーのアプローチとは対照的に、私たちは自分たちの方向性を堅持しました。当初から、P&C 保険会社向けに、標準化され、更新可能なソフトウェア製品を開発することに注力してきました。一見、当たり前のように聞こえますが、大規模かつ複雑な保険会社を対象とする場合、実際はそうではありませんでした。

 

当社が行った大きな戦略的変更はただ一つ、オンプレミス型ソリューションからクラウド型ソリューションへの移行でした。もちろん、2000年代初頭にはそれは現実的な選択肢ではありませんでした。

 

私たちは、生命保険、年金保険、および労災保険のような自家保険を意図的に対象外としました。一時期、様々な自家保険も十分に似ていると考え、対象に含めました。Guidewire はそのうちのいくつかを獲得し、意気揚々としていましたが、それは誤りであることが判明しました。違いがあまりにも大きかったため、私たちは結局、すべての収益を返金し、一旦撤退して再度戦略を見直しました。販売が非常に困難で、1 ドルも無駄にできない状況だったため、感情的にはつらい瞬間でした。しかし、特に 2005 年頃、私たちがこの状況に対処した方法を誇りに思っています。

 

当社の提案は、投資家向けに調整されたものではなく、明確な市場分析に基づいた、シンプルでわかりやすいものとして、常に維持してきました。数々の失敗もしましたが、この点に関しては、失敗はありませんでした。戦略の明確さと、シンプルで焦点を絞った提案が成功の鍵でした。

 

当時、シリコンバレーはインターネットブームの真っ只中にありました。技術によって切り開かれる魔法のような未来に対する期待が広がっており、今のAIブームとやや似た状況でした。しかし、その夢を過剰に追い求め、過度に宣伝した結果、大きな崩壊が起きました。だからこそ、私は保険会社に対して、保険業務はAIの導入によって多大な恩恵を受けることができますが、その期待は実際の技術力を超えるべきではないと強調しています。

 

Guidewireに戻ると、当社の文化は、ブーム期の企業の文化とは大きく異なっていました。私たちは非常に野心的でしたが、その原動力は、主に個人的な富やエゴではありませんでした。目標は、質の高いソフトウェアを開発し、優れた同僚と協力しながら、業界の実際の課題を解決することでした。

 

社員に「金持ちにはなれないし、母親はその仕事内容を理解できないし、仕事は大変になる」と伝えました。それでも、なぜかそれがうまくいきました。創業者は率先して、誰よりも一生懸命働き、他の社員にも同じ道を歩むよう促しました。

 

また、その頃は、業界が私たちのような製品を必要としていた時期でもありました。ベンチャーキャピタルは資金調達のコストが高く、創業者や従業員にとって不公平な場合が多かったです。当時はあまり気にしていませんでしたが、今では考え方が変わりました。

ミハウ・トロヒムチュク:Guidewire の成功には、企業文化と創業者の考え方がどのような役割を果たしたのでしょうか?

 

マーカス・リュウ氏:今では、創業者と話すとき、私は次の3 つのことを強調しています。

 

  • 戦略の明確さ
  • 業界への敬意
  • 正しい理由による動機付け、つまり同僚との価値観の共有と顧客サービスへの献身

 

時間はかかりましたが、Guidewireはこれらの原則のおかげで成功を収めました。

 

この戦略的枠組みの構築はすぐには実現しませんでしたが、その目標は明確でした。保険業界における機関システムの移行は非常に困難であるため、10 倍の能力が必要であることを認識していました。

 

私は、保険会社が他業種よりもイノベーションに乏しいという考えを受け入れたことはありません。そして実際に保険業務の現場で多くの時間を過ごす中で、その専門性と高い能力に対して深い敬意を抱くようになりました。しかし、多くの保険会社は必要以上に官僚的であり、それがイノベーションを困難にしているのも事実です。

 

Progressive、 Geico、USAA などの企業は、独自のシステムを構築し、1980年代に多大な優位性を確立しました。しかし、2010 年には、それだけでは不十分になりました。他社との差別化を図るためには、業務分担が必要でした。企業は、すべてを自社で構築することではなく、自社をユニークにする要素に集中しなければならなかったのです。

 

React や Angular などのカスタムフレームワークを開発すべきか、それとも標準的なソリューションを採用すべきかについて、多くの議論がありました。2010年までは、その答えは明らかでした。標準化が未来への道だったのです。

 

企業は、極端に振れすぎると失敗することがよくあります。ソリューションをフルカスタムから完全に標準化されたものへ一気に移行することはできません。こうした移行には、時間と慎重な対応が求められます。

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